もちやなこと

誰も傷付けない笑いなんてない。その刃をどこに向けるつもりだ?

M-1では「しゃべくり漫才」「コント漫才」のどちらが有利なのか?

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 M-1グランプリ2020の決勝進出者のメンバーを見て、気になることがあった。

 「アレ、しゃべくり漫才コント漫才のバランスが良くないか?」

 漫才のスタイルは、大きく「コント漫才(漫コン)」と「しゃべくり漫才」に分類される。前者は、漫才中に別人を演じたり、舞台とは別のシチュエーションにいる設定で、役になりきって話を進める、コント形式の漫才。後者は、コント漫才のように役には入らず、漫才師本人がそのまま話を進める、シンプルな会話スタイルの漫才だ。

 2020年大会では、決勝に進出した9組のうち、5組がコント漫才、4組がしゃべくり漫才を2回戦にて披露しており、絶妙な均衡を保っている。

 この「しゃべくり/コント」の割合は、準決勝や準々決勝、2回戦では、どちらの方が通過率が高かったのか? というか、コント漫才しゃべくり漫才以外に新たなスタイルは存在しないのか? 今回はこの謎を探るため、M-1グランプリ2020における、漫才スタイルのトレンドを考えてみる。

【注意】本記事では芸人が披露したネタを無理やりカテゴライズしています。M-1 2020年 2回戦にいて披露されたネタに限定し、筆者の個人的な判断で判別しているため、M-1勝戦やその他の舞台で披露されるネタの形式とは異なる可能性はめっちゃくちゃあります。不満を持つ人も多いと思いますが、どうか皆様の寛大な心でご容赦いただけますようよろしくお願いいたします。

 

■漫才は「しゃべくり」「漫コン」だけじゃない!新スタイルが台頭中

 まずは、M-12020の決勝に進出したコンビがどのようなスタイルを採用しているのかを見てみよう。本番がどのようなネタになるのかは分からないが、少なくとも2回戦の時点では、以下のような漫才スタイルのネタを披露していた。

 なお、ここでいう【コント漫才しゃべくり漫才】の違いは、あくまで【役やシチュエーションに入った状態で話が進行する/役やシチュエーションには入らない】という差だけで判断している。あら~く分類している点にはご注意いただきたい。


コント漫才
・見取り図☆
・錦鯉☆
ウエストランド
マヂカルラブリー
・ニューヨーク

しゃべくり漫才
・アキナ
・オズワルド
東京ホテイソン
・おいでやすこが◇


 決勝進出コンビの漫才スタイルを大きく分けると、上記のようになる。しかし実際には、彼らすべてがコント漫才しゃべくり漫才をやっているかというと、そういうわけではない。特に、☆★◇マークを付けたコンビは、少しヒネった形で漫才を披露している。

 ☆マークを付けたコンビ(見取り図、錦鯉)は、2人のうちボケ役だけがコント入りをし、ツッコミ役はそのコントには入らず、本人のままツッコミを入れる「1人コント」スタイルを採用していた。

 この一人コントスタイルは、2017年にスーパーマラドーナが披露した「エレベーター」のネタが高得点を収め、翌2018年には霜降り明星がファーストステージ・最終決戦ともにこのスタイルを採用したことで、新たな漫才スタイルの1つになりつつある(数値的根拠は後半で)。ボケとツッコミの役割分担がわかりやすい点は特徴だが、完全な分業制のため、ボケツッコミの役割入れ替わりのようなテクニックや、2人の関係性を題材としたボケ、言い争い・掛け合いといったような見せ場が作れない点ではデメリットもある。

 ★を付けたコンビ(ウエストランド)は、序盤にコント入りするものの、徐々にしゃべくり漫才のようなスタイルへ戻っていく、かなり特異なスタイルだ。「コント風しゃべくり漫才」という、しゃべくりとコント漫才のハイブリッドといえるかもしれない。

 ◇のコンビ(東京ホテイソン、おいでやすこが)は、コント漫才とは違って役に入らないが、歌を主体とした構成のため、純粋なしゃべくり漫才ではない。むしろ「歌ネタ」と見做した方が良いかもしれない。

 というわけで、決勝進出9組の漫才ジャンルは、大分類だと【コント漫才:5】【しゃべくり漫才:4】だが、さらに細かく分類すると、【コント漫才:2】【1人コント:2】【コント風しゃべくり漫才:1】【しゃべくり漫才:2】【歌ネタ:2】となる。バリエーションはかなり豊富。もし運営側がこれを狙って選出していたのならアッパレである。


M-1で勝ち進むためには、しゃべくり漫才は不利かもしれない

 決勝進出者がこのようにバランス良く選出されているのであれば、準決勝や準々決勝、2回戦もバランス良く選ばれているのだろうか? 予選の時点における漫才スタイルの割合も調べてみた。

 繰り返しになるが、ここのカテゴリ分けはあくまでも2回戦で披露されたネタを基準にカテゴリ分けをしているだけであり、準決勝・準々決勝で披露されたネタを参照しているわけでは無い点をご理解いただきたい。

※注釈1:「コント風しゃべくり漫才」はウエストランド以外にはなかったため、コント漫才に含めている。

※注釈2:どのカテゴリに入れるか悩んだ組については、「特殊」というカテゴリでカウントしている。具体的にいえば、すゑひろがりず(最初から狂言コント入り)、ダイヤモンド(役には入っていないが、小野が最初から1分以上黙っており掛け合いがない)。トム・ブラウンは1人コント、フースーヤコント漫才としてカウントした。認識が異なる人も多いかもしれないが、とりあえず私見の試算ということでどうかご勘弁いただければと思う。


【2回戦】全593組(次ラウンドに進出した組)
コント漫才…208組(52組)
・1人コント…44組(7組)
しゃべくり漫才…306組(48組)
・歌ネタ…17組(5組)
・特殊…18組(2組)


【準々決勝】全115組
コント漫才…53組(9組)
・1人コント…7組(3組)
しゃべくり漫才…48組(12組)
・歌ネタ…5組(2組)
・特殊…2組(0組)


【準決勝[敗者復活含む]】全26組
コント漫才…9組(3組)
・1人コント…3組(2組)
しゃべくり漫才…12組(2組)
・歌ネタ…2組(2組)


 2回戦の時点で圧倒的に母数が多いのが、しゃべくり漫才。特に役に入ることもなく、2人で話すだけでできてしまうので、当然の結果だろう。続いてコント漫才、1人コント、歌ネタの順となる。

 とはいえ、母数が多いとなると、その分ライバルも多いことになる。2回戦進出組を基準に、各漫才スタイル別の決勝進出率を掲載すると、しゃべくり漫才は0.6%(306組中2組)。コント漫才が1.4%(208組中3組)、1人コントが4.5%(44組中2組)、歌ネタが11.7%(17組中2組)であるのと比べると、特に少ない数値だ。確率という観点においては、しゃべくり漫才で決勝進出を狙うというのは、相当に難しい話であることがわかる。

 逆に、1人コントと歌ネタは、まだまだライバルが少ない。とはいえ1人コントについては、ニッポンの社長、武者武者、マルセイユ、カナメストーン、金魚番長など、お笑いシーンで注目を集めているコンビも採用しているケースが多く、これからも採用する組は多くなるかもしれない。もし歌唱力に自信があるのであれば、思い切って歌ネタにチャレンジしても良いかもしれない。


■関西はしゃべくり漫才が多いのか?

 ところで、関東と関西で、漫才のスタイルに違いはあるのだろうか?2回戦の関東開催・関西開催ごとの漫才スタイルを比べてみた(2回戦の関東/関西開催には、北海道や九州など、その他の地域で活動している芸人も含まれる。その点はどうかご理解いただきたい)。


【2回戦関東開催】362組(カッコ内は各開催の出場組数に対する割合)
コント漫才…120組(33.1%)
・1人コント…28組(7.7%)
しゃべくり漫才…184組(50.8%)
・歌ネタ…13組(3.6%)
・特殊…17組(4.7%)


【2回戦関西開催】232組
コント漫才…88組(37.9%)
・1人コント…16組(6.9%)
しゃべくり漫才…122組(52.6%)
・歌ネタ…4組(1.7%)
・特殊…2組(0.9%)


 両開催を比べると、そこまで大きな差はない。敢えて違いをあげれば、関西では歌ネタや特殊な漫才が少ないくらいか?個人的に「関西はしゃべくり漫才が強い」と勝手に思い込んでいたが、そこまで多いわけでもない。なんなら、コント漫才の割合は関東開催よりも高い。東西ともに、お笑いのトレンドにそこまで大きな違いはないと言っても良いだろう。

 

本日の結論:「俺は関西人だから、しゃべくり漫才が好きやな~」とか言ってる奴のことは信じるな!