もちやなこと

誰も傷付けない笑いなんてない。その刃をどこに向けるつもりだ?

吉住のネタに「第7世代」の本質を見たかもしれない(THE W 全組振り返り)

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 THE Wの放送を見たところ、「もしかしたら優勝した吉住のネタに、『お笑い第7世代』のお笑いの本質があるのではないか?」と思ってしまった。

 そもそも吉住が第7世代なのかどうかは疑問ではあるところなのだが、どうも深いところで、2018年のM-1チャンピオンである霜降り明星や、2020年のM-1で勝ち進んでいる若手が志しているものと繋がっているように思えた。

 今回はTHE Wの全組の出場者に、私が勝手に賞を与えつつ、これからの世代のお笑いがどのようになっていくのかを無理矢理予想してみたい。

 

【Aグループ】TEAM BANANA:正統派過ぎちゃったかもしれないで賞

 漫才テクニックは出場メンバーでも群を抜いている。ただ、ベースの話がシンデレラで、ボケも女に嫌われる女イジリ、相方の容姿イジリというのは、女性漫才師の正統派なやり方すぎる。言い方は悪いが“手垢が付いた手法”に見受けられ、優勝した吉住とほぼ同い年のはずなのに、やけに古臭く見えてしまった。まだまだ老け込む年齢じゃないはず。


【Aグループ】オダウエダ:頭おかしいで賞

 今大会で最も頭がおかしかったのが、2本目のオダウエダ。オードブルとハムスターと拳銃を突きつけるナンセンスさにバッファロー吾郎を思い出すが、どうやら植田さんはそっち方面のお笑いも好きらしい。変態じゃん(褒め言葉)! あまりのくだらなさに、ネタ中は終始大笑いしていた。もっともっとナンセンスなことをやってもいいくらいだ。道で出会ったら金一封を差し上げたい。


【Aグループ】にぼしいわし:いわしは今年頑張ったで賞

 今年もハネなかった……。雲梯の発明者という架空の人物をネタのメインに据えるという、明らかに奇を衒ったネタではあるのだが、何もかもが無茶苦茶だったオダウエダの後だと、むしろ正統派に見えてしまった。THE Wは2年連続出場、M-1も準々決勝進出しており、もはや多くのお笑いファンが実力を認めているだけに、2年連続で決勝でハネない姿を見るのはもどかしい。いわしが最後に無理やり告知をねじ込むなど、現状を変えようともがく姿勢には光が見えたが、去年のしゃべくり、今年のコント入りでもハネないとなると、初めからコントにした方が良さそうにも思える。頑張れ、いわし!ついでににぼしも!

※初出時、にぼしといわしを逆に記載しておりました。大変申し訳ございません


【Aグループ】紅しょうが:リ○ゴは○んで良いで賞

 個人的に、THE Wで勝ち抜くには漫才じゃなくてコントの方が良いと勝手に思い込んでいたけど、彼女たちはそんな私の甘い考えを見事に打ち砕き、悠々と決勝に駒を進めた。強引なボケが多めだが、それは計算ずく。「行き過ぎた自虐は笑えないですよね」と、冷静に客観視したセリフが吐けるのはすごすぎる。ハイヒールリ○ゴの突然の体型イジリにも負けずによく頑張った(稲田さんに脚光を浴びさせたかったのかもしれないけど、あれはないよ。リ○ゴないわ、マジ)。


【Aグループ】ターリーターキー:運が良いのか悪いのか分からないけど、輝いていたで賞

 スパイクの欠場で出番が舞い込み、ツイているかと思いきや、紅しょうがが素晴らしい漫才を見せた後の出番という点で、逆にツイていないなかった。玉さんがデキる女性社長、伊藤さんがデキないOLという、双方ともに見た目に合った役回りのコントなので(伊藤さんごめんなさい)、大変楽しく見られた。本当に見た目がフィットしていたから、よりリアル社長っぽく、リアルダメOL風なセリフや演出がもっとあっても良かったかも。

 とはいえ、テレビに映った2人はキラキラと輝いていており、代役どころかメインイベンターにふさわしい存在感があった。彼女たちのように笑顔が似合う人間になりたい。眩しい。


【Bグループ】Aマッソ:常に笑いの先端を行くあなたがたはえらいで賞

 M-1でもキングオブコントでもできない、THE Wでしかできない映像漫才。こんなネタを志向するのも、実際に本番でやってこなすのも、Aマッソしかいない。まさに彼女たち(というか加納さん)のトガリの境地といったところだろう。Aマッソのひとつの完成形がここにあった。ネタ自体は知っていたけど、素直に脱帽です。

 惜しむらくは、手段が斬新すぎて、ネタに感情移入する余地がなかったところか。常に笑いの手法の最先端を走り続ける彼女たちが潜在的に持つ不安要素が、決勝の舞台で露見してしまった。これもAマッソの宿命なのか?とはいえ、拍手に値するネタだったことは間違いない。誉!


【Bグループ】ゆりやんレトリィバァ浅越ゴエの有り難さに気付かされたで賞

 ネタ前のVTRで「海外留学!」「『アメリカズ・ゴット・タレント』出演!」といったハードル高めの煽り映像が流れた後、ゆりやんが披露したネタは、なんとオールザッツ漫才や有吉の壁で大ハネした、サザエさんのカツオのモノマネ(をしつこくやり続けるだけ!)。しかし、ただそれだけのことがめっちゃくちゃ面白い。カードゲームの大富豪(大貧民)で例えるなら、Aマッソがジョーカーを出した後、ゆりやんスペードの3を出して勝ってしまったといったところか。単純でシンプルなネタが、Aマッソの正鵠を射たのだ。

 私も大笑いしたものの、最後のじゃんけんでキャラを捨ててセルフツッコミをしていたのが残念。オールザッツでツッコんでいた浅越ゴエの有り難さをTHE Wで知るという、貴重な経験をしてしまった。


【Bグループ】吉住:人間が放つ熱いエネルギーを感じた大賞

 ご存知の通り優勝者。正直、強力なコンビ・トリオが溢れる今大会で、ピンでは難しいと思ったが、群を抜いて面白かった。凄すぎる。

 ネタの役とシチュエーションは「別れ話をする女性審判」「銀行強盗時に上司に愛を告白する女性銀行員」という荒唐無稽なものだが、ネタの中には「ありのままの自分を愛してほしい」「死ぬと思ったら今すぐ行動に移すべき」「心の底から生きたいと思う瞬間は何か」という、(深読みすれば)わかりやすいメッセージが含まれている。霜降り明星粗品が、2018年のM-1グランプリ最終決戦で見せた「しょうもない人生」というツッコミに通じる、“自分はこれがしたい”という、確固たる熱いエネルギーを感じた。


【Bグループ】はなしょー:演技うますぎなのでドラマに出てほしいで賞

 もはやAマッソ以上にワタナベのトップ女性お笑いコンビともいえる彼女たちだが、演技はどう考えてもうますぎる。はなさんは老婆にしかみえないし、しょうこさんのヤンキー姿は、もはやはなさんの演技レベルを越えている。これぞ憑依芸。2人ともお笑いに限らずドラマにも出てほしいくらいだ。

 その高い演技力の割に、脚本が素直すぎたか。しょうこさんが良い子であることだと判明した後は、ただただ優しい話が続いてしまった。このあたりの価値の安易な裏返しは、同じくワタナベのコント師ファイヤーサンダーやGパンパンダ。ハナコは除く)にもよく見られる。所属事務所の特性なのか? 進化しすぎる演技に見合った脚本で輝く彼女たちが見たい。


【Bグループ】ぼる塾:今年はお疲れさまでしたで賞

 もはやテレビで姿を見ない日はない人気者となった彼女たちだが、さすがにメディアに出続けたことで、漫才の手の内がバレてしまったのか、爆発しなかった。3人のやり取りも定型化してきたものの、時間もないので新ネタを作るのも難しい状況だろう。はるちゃんのパートで笑いが起きない構成も限界に来ていると見た。ともかく、今年はお疲れ様でした。

 

■「自分たちは笑わせるだけ」という姿勢が仇になる時代が到来

 今回のTHE Wの吉住のネタを見て、もしかすると「お笑い第7世代」とは、お笑いのネタの中に、自分の素直な思いやメッセージを盛り込むことにやぶさかでない世代のことを指すのかもしれない、と思ってしまった。

 繰り返しになるが、そもそも吉住がお笑い第7世代かどうかはわからない。しかし、M-1で準決勝まで進出したコンビ「タイムキーパー」が、M-1 1回戦で泣き笑いのストーリー漫才を披露したような、あるいはマセキ芸能社の若手「銀兵衛」が演説のような漫才を見せたような、はたまた「令和ロマン」がM-1準々決勝にて、新型コロナウイルスを軽視する人たちを蹴り倒すくだりを盛り込んだような、「自分は、これが正しいと思う。だから、見ている人たちもわかってほしい」というストレートなメッセージが、吉住のピンネタにはあった。実際、吉住自身もメッセージを込めていることを放送中に話している。彼女のこの志向性は、前述の新世代のお笑い芸人に通じるものがある。

 もし上記の通り「メッセージ」の有無が、第7世代か否かを分けるものと仮定すれば、Aマッソは第7世代のカテゴリには入らないかもしれない。彼女たちは、映像漫才という漫才の手段に特化した漫才を披露したが、その最後に表示されるのは「絶対第7世代って名乗るなよ」という、冷静な自虐の文言だ。“自分らごときが何言うてんねん”というツッコミの刃を自分に向けるのは、情報の発信者として極めて冷静で正しい姿勢ではあるが、彼女たちほどの実力者であれば、その刃を視聴者に向けたとしても良かったかもしれない。

 お笑いのネタに、必ずしも見ている人へのメッセージを乗せる必要は無い。しかし、ただ単に笑えてナンセンスなネタが評価される世界だとしたら、吉住が優勝したことの説明がつかない。

 「自分たちはお笑いをやるだけ」というシンプルな姿勢は、穿った目で見れば、ノンポリでマッチョな姿勢とも言いかえられる。しかし、そうした笑いはメッセージ性のあるネタの前に、もろくも崩れ去った。

 ひとつの時代が終わるということは、もうひとつの時代が始まることでもある。無理に生まれ変わる必要はない。今までのやり方をちょっとだけ変えてみるだけで、意外とうまくいくこともあるかもしれない。